文字起こし(テープ起こし)は、インタビューなどの録音された音声を聞き取り、文章データを作成する仕事です。「テープ起こし」ともいわれます。
効率よく作業するためには、いくつか文字起こしのコツがあります。
文字起こしを効率アップするコツを教えてください!
わかりました。
初心者の方のため、今回は文字起こしの9つのコツを徹底解説いたします!
在宅ワークやアルバイトで文字起こしをされている方や、これから文字起こしを仕事にしたい方も、ご紹介するコツを、ぜひ、お役立てください。
目次
文字起こしを効率アップする9つのコツ
文字起こし(テープ起こし)を効率よく、速く行なうためには、コツを知っておく必要があります。コツがわかれば、疲労感を軽減してスピーディーに作業できるため、効率アップでるでしょう。
大きく分けると、次の3つを意識します。
- 機器を揃えて環境を整える
- 基礎知識を習得しておく
- 臨機応変な対応法を知っておく
これらを意識すると、具体的な9つのコツがわかってきます。
詳しく見ていきましょう。
コツ1. 音声ソフトを使う
音声を聞き取るときには、文字起こし用の音声ソフトで再生しましょう。
文字起こし用の音声ソフトを選ぶポイントは次の3つです。
- 音声タイムのコピーができる
- 「ちょっと戻り」の機能がある
- フットスイッチで操作できる
【音声タイム】
「00:00:00」などの時間の記号です。
聞き取れなかった場所などに記入しますが、その都度、手入力するのは労力がかかり大変です。また、誤入力の心配もあります。そこで、音声タイムのコピー機能があると、便利でしょう。
【ちょっと戻り】
音声を停止してまた再生するときに、数秒戻った位置から再生される機能です。
戻る秒数は2〜3秒に設定するライターが多いようです。効率的に文字起こしをするためにはこの「ちょっと戻り」の機能は必須です。
【フットスイッチ】
足で、音声の停止・再生などを行えるスイッチです。フットスイッチで操作できると、両手をタイピングに集中できるため、とても便利です。
フットスイッチについては、次でご説明いたします。
コツ2. フットスイッチを使う
フットスイッチは、音声の再生・停止・巻き戻し・早送りを足で行えるスイッチです。
フットスイッチを使えば、両手をタイピングに集中させられます。
再生や停止のために、いちいちキーボードから手を離してマウスに持ち替えなくてもすむのは助かります。
「フットスイッチ USB」で検索すると、文字起こしに適したフットスイッチが見つかるでしょう。
次のタイプがおすすめです。
- 価格は1万円前後
- パソコンにUSB接続できる
音楽用のフットスイッチはパソコンに接続できないこともあります。必ず、パソコンにUSB接続できるタイプを選びましょう。
コツ3. 適切なヘッドホン・イヤホンを使う
「音声を聞き取る」環境を整えるだけで、ずいぶん効率は上がると思います。
そのためのコツはありますか?
正確にストレスなく聞き取るためにも、ヘッドホン・イヤホン選びにはこだわりましょう。
用途に合わせて使い分ける必要もあります。
集中して細かく聞き取る: 密閉型モニターヘッドホン
長時間の作業: カナル型イヤホン
「聞き取りにくい音声にはモニターヘッドホン」
「長時間快適に作業したいからカナル型イヤホン」
そんなふうに、作業に適切なヘッドホンとイヤホンを準備しておきましょう。
【モニターヘッドホン(密閉型)】
文字起こしに必携なのがモニターヘッドホンです。
「モニターヘッドホン 文字起こし」で検索すると、文字起こし用ヘッドホンの代名詞ともいえる商品が見つかるはずです。
モニターヘッドホンと普通のヘッドホンの違いは次の点です。
- モニターヘッドホン: 音を聞き分けるために全音域が均一に調整されている
- 普通のヘッドホン: 音楽鑑賞用に、特定の音域を強調する調整がされている
音楽鑑賞が目的のヘッドホンは、重低音が強調されていることがありますが、文字起こし(全音域を聞き取る必要がある)には向きません。
モニターヘッドホンは、低音から高温まで平均して聞けるように調整されています。文字起こしで音声を聞き取るのに適しています。
ただし、モニターヘッドホンには「重い」「蒸れる」という問題もあり、長時間使い続けることは難しいです。
次のような場合に使用するとよいでしょう。
- 集中して聞き取りするとき
- 聞き直し構成をするとき
また、ヘッドホンには、「密閉型」「開放型」の2タイプがあります。文字起こしには、遮音性の高い密閉型を選びましょう。
【カナル型イヤホン】
ある程度聞き取りやすい音声であれば、イヤホンを使って作業できるでしょう。
イヤホンは、軽量で蒸れないため、長時間の作業に向いています。イヤホンの中でも、遮音性の高いカナル型イヤホンがおすすめです。カナル型イヤホンは、耳栓のように耳の中にフィットさせて使うため、音声を聞き取るのに向いています。
もちろん、細かい音声を聞き取るためには、遮音性の高いヘッドホンの方が向いています。しかし、ヘッドホンには「重い」「蒸れる」という問題があり、長時間使用し続けるのがしんどいこともあります。
もし、次の2つの条件が揃っていて、長時間の作業が見込まれるときには、イヤホンを使ってみるとよいでしょう。
- 聞き取りやすいクリアな音声データである
- 静かな環境で作業ができる
騒音のない静かな部屋で、聞き取りやすい音声データであれば、軽量のカナル型イヤホンで快適に作業してみましょう。
コツ4. 「素起こし」「ケバ取り」「整文」を会得する
文字起こしには代表的な3種類の起こし方があります。
素起こし・逐語起こし : 音声を忠実に文字にする
ケバ取り : 不要語を削除・修正する
整文 : 読みやすく整える
これら3種類の起こし方を理解し、臨機応変に対応できるようになっておきましょう。
素起こし・ケバ取り・整文を、例文で確認してみましょう。
【例文:「素起こし」「ケバ取り」「整文」の違い】
音声:えーと、実はですね、会議とかの席でお伝えしようと思っていました。
↓
【素起こし】
えーと、実はですね、会議とかの席でお伝えさせていただこうと思っていました。(音声に忠実)
【ケバ取り】
実は、会議とかの席でお伝えさせていただこうと思っていました。(相づち、不要な箇所を削除)
【整文】
実は、会議でお伝えしようと思っていました。(不要な部分を削除し敬語を整える)
音声をそのまま起こす「素起こし」から、読みやすく整える「整文」へと、整える強度が上がります。
ただし、「素起こし」「ケバ取り」「整文」は、文字起こし業界で使われる特殊な用語です。
クライアント様と仕様を確認する際には、特殊な用語ではなく、「このような処理で…」という具体的で丁寧な説明が必要です。どの程度の起こし方をするのか齟齬がないように決めます。
「記録として正確に文章データにするのか」「雰囲気を再現して臨場感のある文章データにするのか」など、あらゆる起こし方を書き分けられるようになるとよいでしょう。
コツ5. 表記の知識を身につける
文字起こしでは、音声をただ文字にすればいいわけではありません。
表記ルールに則り、正しい文章として仕上げます。そのため、一般的な表記の知識が必要です。
クライアント様の表記ルールや社内表記ルールがあれば、そちらに表記を合わせます。表記ルールが指定されない場合には、一般的な表記の基準に従います。
文字起こしの際に表記の指針となるのは次の2冊です。
「記者ハンドブック」共同通信社
「新訂 標準用字用語辞典」日本速記協会
「記者バンドブック」は新聞表記、「新訂 標準用字用語辞典」は速記表記という違いがあります。どちらにするか迷う場合、より汎用性のある「記者ハンドブック」 を選ぶとよいでしょう。一般書店で購入できます。
なお、国が示す表記の指針は、文化庁のウェブサイトでも確認できます。[注1]
国が示す表記の指針をわかりやすくまとめた書籍が上記の2冊です。表記の知識が身についていれば、逐一確認をしなくても、一般的な表記に基づいて文章を作成できます。確認しながら地道に身につけていきましょう。
コツ6. 各分野の専門用語を知っておく
文字起こしでは、さまざまな分野の仕事を請け負います。
そこで、知らない言葉・知らない用語があると、とたんに聞き取りが難しくなります。「知らない言葉は聞き取れない」とは、外国語学習でいわれることですが、日本語にも当てはまります。
次の用語をパッと文字にできるでしょうか。
「あーるしーぞう」
「いもめじ」
次のように表記します。
「RC造」
「芋目地」
どちらも、もともと知っていないと、1回聞いてパッと文字にはできないものです。
次の2つを意識して、知識の幅を広めておきましょう。
- 新聞・ニュースに興味を持ち語彙力を増やしておく
- 次に請ける仕事の専門用語集に目をとおしておく
知らない用語に出会い、調べながら知識を増やしていくことは、文字起こしの醍醐味ではあります。しかし、あまりにも頻度が高くては、時間がかかって少しも進まない!なんてことにもなりかねません。
語彙力の引き出しを増やして仕事に臨みましょう。
コツ7. 不明箇所はタイムコードを記入して先へ進む
聞き取れないときには、タイムコードを記入して先に進みましょう。ひとまず作業を終えてから、聞き直しをするほうが効率がよいです。
特に、長時間の音声データであれば、聞き取れない箇所や不明な箇所が出てくるたびに止めていたのでは、いつまでたっても作業が終わりません。しかるべき対処をして、先に進めたほうがよいでしょう。
3つの対処法をご紹介します。
【対処法1: 記号を記入する】
・●(くろまる)〓(げた)を記入する
情報を●すると鮮明にわかります。
文字数にかかわらず●1個など、仕様で取り決めをしておきます。
【対処法2: 記号とタイムコードを記入する】
・記号とタイムコード(00:00:00)を記入する
情報を●(00:15:17)すると鮮明にわかります
タイムコードを記入しておくことで、後で確認するときに、確認する場所がすぐにわかります。記号だけでなく、タイムコードを記入するほうが便利です。
【対処法3: 聴衆不能の記入をする】
・長い文章が聞き取れないとき
国際社会で価値観が多様化する中、
(00:05:06〜00:07:09聴取不能)
努力と皆さまのご協力のおかげでここまでに発展しました。
録音機器の不具合や騒音の影響などで長い文章が聞き取れないことがあります。その場合は、タイムの幅と聴取不能の記入をしておきましょう。
作業が一段落してから、聞き直しして確認できるようにしておきます。
文字起こしをしていて聞き取れないときの対処法を丁寧に解説した記事があります。こちらも、ぜひ、ご覧ください!↓
コツ8. 状況別に起こし方のポイントを押さえておく
文字起こしで依頼される音声には、単独のトークから、複数人での会議など、さまざまな状況があります。
単独のトーク: 講演・学会・講義・スピーチ
複数人のトーク: インタビュー・ディスカッション・会議
状況に合わせてポイントを押さえてから聞き取りを始めましょう。
【講演】
・音声のテーマを理解する(建設・会計・起業…など)
・専門用語やよく使われる略称を確認しておく
・表記の希望を確認しておく
【インタビュー】
・聞き手と話し手の声がかぶる場合は流れがつながる言葉の方を起こす
・相づちはケバ取りするが、意味のある返事であれば残す
・話者の特徴をメモして聞き分ける(イントネーション、口癖など)
コツ9. 頻出単語は省力タイピング
音声データを聞いていると、テーマにより、頻出する単語があるでしょう。
例えば、サッカーの監督の講演であれば、サッカー用語や特定のチーム名などが頻出します。また、医療系のテーマのであれば、特定の病名や薬の名前なども繰り返し出てくるでしょう。
頻出単語は、ご使用の文章ソフトの単語登録機能を使って単語登録しておくと便利です。
また、単語登録までしなくても、タイピングを省力化できます。
例えば、「健康福祉局センター」という言葉があります。「けんこうふ」まで入力すると、予測変換の候補として「健康福祉センター」が出てくるでしょう。そちらをTabキーで選択し、Enterキーで確定します。
すると、「け」と入力しただけでも「健康福祉センター」が候補に出て、スピードアップします。
文字起こしを続けるために効率アップしよう
文字起こしを仕事として続けるなら、クオリティとスピードのバランスをとりながら、効率アップすることが欠かせません
時給換算したときの収入を増やすためにも、多くの仕事を請けるためにも、高い精度で、なおかつスピーディーに仕事していけることを目指しましょう。また、企業側としても、同じ精度なら、こなせる仕事量が多い人を優先する事情もあります。
長く続けるためにも、コツを押さえて、効率アップしていきましょう。
コツを押さえれば効率アップできる
文字起こしには、ご紹介したコツがあります。コツを押さえることで、作業効率が上がり、精度もスピードもアップするでしょう。
効率よく進めるためには、ある程度の経験が必要です。請ける仕事の一つひとつから学べることがあります。丁寧にこなしていきましょう。
参考文献:廿里美「文字起こし&テープ起こし即戦力ドリル」株式会社エフスタイル