テープ起こし(文字起こし)の校正では、大きく2つの作業をします。
- 1. 聞き直し校正: 起こした文章と音声の照合
- 2. 読み直し校正: 誤字脱字のチェックや表記の統一など
起こした文章と音声を照合して、聞き間違いなどをチェックするのは、テープ起こし独特の作業でしょうか?
そうです。
1では「正しく聞き取れているか」「仕様書に沿って起こせているか」を確認します。
2では、「適切な表記ができているか」「正しい文章か」を確認します。
クオリティの高い原稿を納品するために、校正はとても重要な工程です。
今回は、テープ起こしの校正について基礎知識から注意点までご説明します。
目次
テープ起こし(文字起こし)の校正:2つの工程
校正とは、文章の誤りを見つけて修正し、正しく整えることを指します。
テープ起こし原稿でも、一般的な基準を満たした文章が求められるため、校正で文章をチェックします。さらに、テープ起こしにおける校正では、もう一つの作業工程があります。音声データと文章データの照合を行い、聞き間違い・起こし間違いがないかいかをチェックする工程です。
つまり、テープ起こしの校正では、次の2つの作業をします。
- 起こした文章と録音音声の照合
- 文章の校正(誤字脱字の修正など)
起こした文章と音声を照合するのは、テープ起こしの校正ならではの作業です。
文章の校正では、通常の校正のように文章を正しく整えます。
テープ起こしは、ただやみくもに音声を文字に置き換えればよい、というものではないのがわかります。
1. 聞き直し校正: 文章と音声の照合
テープ起こしの校正では、文章データと音声データの照合も行います。
完成したテープ起こし(文字起こし)原稿を、音声を聞きながら、間違いないかチェックします。ただし、テープ起こしには、「素起こし(逐語起こし)」「ケバ取り」「整文」の3種類があるため、それぞれの特性に沿って照合します。
【テープ起こしの種類】
素起こし・逐語起こし: 発話を忠実に文字化する
ケバ取り : 不要後を削除・修正する
整文 : 読みやすく整える
例えば、素起こしでは、音声を一字一句違わず文字に起こしますが、ケバ取りでは「えー、あー、」などの不要語は削除します。さらに、整文では読みやすく整えます。仕様を確認し、それぞれの起こし方の基準に照らして確認していきましょう。
例文で確認してみましょう。
【例文:種類別の起こし方】
音声:うんうん、その瞬間は、これまでで一番最高でした。
↓文章データへ
【素起こし】
うんうん、その瞬間は、これまでで一番最高だと思ったわけですよ。(音声に忠実)
【ケバ取り】
その瞬間は、これまでで最高だと思ったわけですよ。(ケバを取って重複を修正)
【整文】
その瞬間は、これまでで最高でした。(ケバを取って重複と終助詞を修正)
1時間の音声であれば、すべて確認するのに1時間より時間がかかるでしょう。
聞き間違い、起こし間違いがないか、根気強く確認します。
2. 読み直し校正:文章の校正
テープ起こしで仕上げた文章データは、通常の校正のように、誤字脱字や表記ゆれなどを見つけて修正します。
主に、次の項目をチェックします。
- 誤字脱字
- 表記ゆれ (漢字表記・平仮名表記などを表記ルールに沿って統一)
- 数字表記 (算用数字か漢数字か)(全角か半角か)
- 正しい日本語 (整文の場合)
例文で確認してみましょう。
【例文:校正】
校正前:本日は宜しくお願い致します。
↓校正
校正後:本日はよろしくお願いいたします。
常用漢字表には「宜」は「ギ」という読み方しかありません。記者ハンドブックでも、「宜しい」は「よろしい」と平仮名で記載されています。つまり、この場合、平仮名で表記するのが正解です。[注1]
「お願いいたします」の「いたします」は、「お願いする」の補助動詞であるため、「いたします」と平仮名で表記します。
このように、テープ起こしの文章も、校正の段階で正しい表記に修正します。
[注1]文化庁/常用漢字一覧表pdf
文章校正で気をつける3つのこと
それでは、文章の校正で気をつけたいおもな項目3つを確認してみましょう。
誤字脱字
文字起こしの段階で、ライターの方がどんなに丁寧に仕上げても、どうしても細かい誤字脱字は発生してしまうものです。そこで、校正では、第三者の目で確認します。
誤字脱字には次の3つのタイプがあります。
- 漢字の誤認識によるミス
- 変換ミス
- タイプミス
例文で確認してみましょう。
【例文:誤字の例】
誤認識によるミス: 誤ちを改める → 過ちを改める
変換ミス : 帝国に帰る → 定刻に帰る
タイプミス : 極悪人ください → ご確認ください
長い文章のなかでは、思わぬミスをしてしまうものです。
校正では、文章の意味を理解しながら慎重に読み進めてチェックしましょう。
表記の統一
テープ起こしの原稿は、クライアント様の仕様、自社の基準、一般的な基準などに照らし合わせて、表記を統一させて作成します。例えば、「下さい」と「ください」が一つの原稿で混在していたら、修正する必要があるでしょう。
「ご注意下さい」と「ご注意ください」のどちらに統一するかといえば、「ご注意ください」が正解です。この場合の「ください」は補助動詞なので平仮名で表記します。[注2]
表記ゆれしやすい言葉は多くあります。
【例文:表記ゆれしやすい言葉】
「ご検討下さい」「ご検討ください」
「猫」「ねこ」「ネコ」
「うれしい」「嬉しい」
「コンピューター」「コンピュータ」
「行う」「行なう」
表記を迷うときには、クライアント様の仕様、社内表記ルールを確認しましょう。一般的な表記の基準を確認するのであれば、共同通信社の「記者ハンドブック」を参考にするのがよいでしょう。
[注2]参考文献: 一般社団法人共同通信社「記者ハンドブック第13版」共同通信社
数字表記
算用数字なのか、漢数字なのかも、表記の統一が必要です。
次のポイントをチェックしましょう。
- 算用数字か漢数字か
- 全角か半角か
- 金額の表記は統一してあるか
例えば、「千円」と「1,000円」が混在していたら、それは表記ゆれです。ルールに沿って統一しましょう。また、全角か半角かも、ルールに沿って統一します。
算用数字か漢数字か、迷う場合には次の基準で考えてみてください。
算用数字 | 漢数字 |
ほかの数に置き換えられる数字 | 語句を構成する要素である数字 |
数量 | 慣用句 |
順序 | ことわざ |
熟語 |
例えば、「1つ目」は順序なので算用数字です。「春一番」は、語句を構成する要素なので漢数字です。
分からないな…と感じる場面では、次の基準で判断してみましょう。
- ほかの数字に置き換えられるなら算用数字
- ほかの数字に置き換えられないなら漢数字
【注意!】意外な表記間違いに気をつけよう
簡単と思っていても、意外にも間違えてしまう表記があります。
わかります。
【例文:表記間違い】
この口座を開設します。
この講座を解説します。
【例文:表記間違い】
決済手続きをする
決裁手続きをする
上記はどちらも、簡単な漢字表記ですが、意味まで考えないと間違えてタイピングしてしまいます。膨大な量を文字に起こしていると、機械的に変換してしまうことがあります。しっかり意味も考えながら記入していきましょう。
校正するときも、発話者の発言する意味や意図を汲みとりながら、丁寧にチェックを進めましょう。
丁寧な校正で質の高い原稿に!
テープ起こし(文字起こし)の校正には、次の2つの作業があることをご説明しました。
- 文章の校正
- 完成した文章と音声の照合
大切なのは、一つひとつ丁寧に確認していくことです。聞き間違いの修正、誤字脱字の修正、表記の統一など、校正の段階で確認して整えます。思っているよりずっと時間のかかる作業かもしれません。それでも、信頼される原稿を納品するためには、丁寧な校正が必要不可欠です。
【参考文献】
一般社団法人共同通信社「記者ハンドブック第13版」共同通信社
廿里美「文字起こし&テープ起こし即戦力ドリル」株式会社エフスタイル