テープ起こし(文字起こし)を始めてみると気がつくのが、相づちが意外なほど多いことです。会話の中では自然な相づちでも、文章にするとスムーズな理解の妨げとなることもあります。

テープ起こしライターが悩む相づちについて、3種類の処理方法をお伝えいたします。

テープ起こしの相づちは悩ましい

文字起こしの相づちは悩ましい

テープ起こしをする人を悩ませるのが「相づち」です。

会話をスムーズにする相づちですが、文字に起こしたときに、話の筋に不要となる相づちがあります。

そうなんですよ!

「はいはい「えー」「おお」など、全部を文字に起こすと読みにくくなることもあり、扱いに悩みます。

・ええ ・はいはい ・ふーん ・ほうほう ・なるほど ・へえ ・やっぱり 

インタビューや対談などは、録音音声に上記のような相づちが頻繁に出てきます。これらを、文字に起こすのか、ケバとして削除するのか、考えてみましょう。

相づちが多い会話をそのまま文字に起こすと…

まず、相づちが多い会話をそのまま文章データにしたらどうなるか見てみましょう。

【例文:相づちが多い会話】

A氏:はい。今日は、世界中から貧困をなくすというテーマでお話を伺います。

B氏:はいはい。まず、今、世界中で、極度の貧困で暮らしている子どもはどれくらいいるかご存知ですか?

A氏:えー、いやー、確か6人に1人でしたかね。はい。

B氏:そうそう。ユニセフの分析によると、そのとおりですね。

A氏:ほうー。

B氏:3億5,600万人の子どもが1日1.90ドル以下で暮らしているというデータがあります。[注]

A氏:うーん。

B氏:1.9ドルというと、約200円ですよね。1日200円以下の暮らしですね。

会話では必要な相づちですが、そのまま文章にすると、不要な言葉が多く入って読みにくく、理解の妨げとなってしまいます。

[注1]参考元:公益財団法人 日本ユニセフ協会/地球上のあらゆる形の貧困をなくそう

相づちを全て取ってしまうと…

それでは、相づちを全部取ってしまえばいいかというと、そんなに簡単なものではありません。上記の例文から相づちを全て取ったらどうなるか、確認してみましょう。

【例文:相づちを全て取る】

A氏:今日は、世界中から貧困をなくすというテーマでお話を伺います。

B氏:まず、今、世界中で、極度の貧困で暮らしている子どもはどれくらいいるかご存知ですか?

A氏:確か6人に1人でしたかね。

B氏:ユニセフの分析によると、そのとおりですね。3億5,600万人の子どもが1日1.90ドル以下で暮らしているというデータがあります。1.9ドルというと、約200円ですよね。1日200円以下の暮らしですね。

相づちによる合いの手が完全になくなると、対談の雰囲気は伝わらず、固くつまらない印象になってしまいます。読みやすくなるよう過剰な相づちは削除しつつも、会話の雰囲気やリズム感が伝わる程度に必要な相づちは残す、という判断ができるとよいでしょう。

相づちをどの程度残すかは、事前の打ち合わせでクライアントの意を伺うことも重要です。

テープ起こしの相づちは3種類の起こし方に合わせて処理する

テープ起こしの相槌処理方法3種類

それでは、テープ起こしの相づちの処理は具体的どうすればよいのかご説明します。

相づちの処理方法は、テープ起こしの種類によって分けられます。

まず、テープ起こしには、次の3つの種類があります。

  • 素起こし・逐語起こし : 音声を忠実に文字化する
  • ケバ取り       : 不要語を削除・修正する
  • 整文         : 読みやすく整える

起こし方の指定により、相づちの処理方法の方向性がわかります。

【相づちの処理方法】

素起こし・逐語起こし : 相づちも全て文字に起こす

ケバ取り       : 不要な相づちのみ削除する

整文         : 相づちは基本的に削除する。文章を読みやすくすること優先

それでは、詳しく見ていきましょう。

種類1 素起こし(逐語起こし):そのまま

素起こし(逐語起こし)は、一言一句を厳密に文字化する必要があります。そのため、不要に思える相づちも、全て文字に起こします。

会話分析や証拠書類では、相づちも、ニュアンスや話者の状況を知る大切な情報です。削除はしません。素起こしは、カウンセリング、会話分析、裁判資料などに使用されます。

【例文:素起こし】

音声   :そうそう。そのとき車が曲がってくるのが見えたんですよ、はい

素起こし :そうそう。そのとき車が曲がってくるのが見えたんですよ、はい

例文のように、一言一句違わぬよう、相づちもそのまま文字に起こします。

種類2  ケバ取り:臨機応変に処理する

ケバ取りでは、不要な相づちは削除します。

「ほうほう」などの相づちは、なくても意味がわかります。むしろ、過剰な相づちは文章を読みにくくしてしまうため、これを削除するのはケバ取りの重要な作業です。

ケバ取りは、インタビュー記事や議事録などに使用されます。

【例文:ケバ取り】

音声   :そうそう。そのとき車が曲がってくるのが見えたんですよ、はい

ケバ取り そうそう。そのとき車が曲がってくるのが見えたんですよ。

例文では、文末の「はい」という自己相づちだけを削除しました。雰囲気を伝えるため「そうそう」という相づちは残しました。ケバ取りでは、明らかに不要な相づちを削除します。どの程度相づちを残すのかは、資料の特性クライアントの希望に従い、判断します。

種類3 整文:基本的に削除

整文では、録音音声を整え、読みやすい文章にします。相づちは基本的に削除します。

整文は、読みやすさ、書き言葉としての正しさを優先した起こし方であるため、ケバ取りの段階では雰囲気を伝えるために残される相づちでも、ここでは削除することもあります。

【例文:整文】

音声   :そうそう。そのとき車が曲がってくるのが見えたんですよ、はい

整文   :そのとき車が曲がってくるのが見えたのです。

例文では、相づちは全て削除し、話し言葉を書き言葉にして、整えてあります。

【注意】肯定の返事は文字に起こす

インタビュー相槌の処理

注意点があります。

相づちを削除してよいのは、それ自体に意味がない言葉である場合のみです。

「はい」が肯定の返事である場合には文字に起こします

話者の独り言のような相づちであれば削除しますが、肯定の返事であれば削除せずに文字に起こすということですね。

ただの相づちであるのか、肯定の返事であるのか、この見分けはしっかりしましょう。

【例文:相づちと肯定の返事】

Aさん:商いで大切なのは信用ですよね?

Bさん:はい、そうですね

Aさん:目先の利益だけにこだわって信用を失ってはいけないのですよ、はい

上記の例文では、肯定の返事と、削除してよい相づちは次のように分けられます。

  • 肯定の返事 : はい、そうですね。(Aさん)
  • ただの相づち : はい。(Bさん)

Bさんの発話の文末の「はい」は、自己相づちとも呼ばれ、自分の発言の確認のための言葉です。話の内容とは関係ないため、ケバ取りで削除します。

一方、Aさんの「はい、そうですね」は、肯定の返事であるため、対談で意味を持ちます。この場合は、削除せずに文字に起こします。

「はい」「うん」などは、相づちなのか、肯定の返事なのか、正しく判断しなければいけません。

力量が試される相づちの処理

相づちを単なる相づちとして機械的に処理することはできないのがわかりました。

そうですね。

クライアントの意図や資料の特性を理解して、整えるべきなのか、残しておくべきなのか、細かく判断しながら、求められる相づちの処理を行っていきましょう。

例えば、雰囲気重視の資料を作成するのであれば、残す相づちは多くなるかもしれません。

また、原稿全体で一定の水準を保たなければなりません。ある部分は固い文章で、ある部分は会話の臨場感たっぷりでは、不自然になってしまいます。

相づちの処理には、テープ起こしライターの力量が試されます。普段から言葉を採択するセンスを磨いておきましょう。