文字起こしのやり方の中でも、今回は、表記に特化して解説いたします。

文字起こしの表記は、「新聞表記」と「速記表記」のどちらかを基準にします。
こちらでは、「新聞表記」に基づいて解説します。

よく使われる言葉の中にも、表記に注意が必要な言葉があります。「よろしくおねがいいたします」という言葉は次のように表記するのが適切です。

×宜しくお願い致します。

よろしくお願いいたします。

上記のように、つい間違えてしまいそうな表記について一つひとつご紹介いたします。文字起こしのための表記の9つのチェックポイントもご覧ください。

【例文】間違いやすい表記10選

文字起こしの表記のやり方を例文でご紹介

それでは、間違いやすい表記をご紹介します。

致します・いたします
補助用言でない場合は漢字祖国に思いを致す

致し方ない。

不徳の致すところ。

補助用言は平仮名お願いいたします

ご挨拶いたします

頂く・いただく
もらう、のせるは漢字お土産を頂く

雪を頂く

補助動詞は平仮名〜していただく

お読みいただく

下さい・ください
もらう、の意味の場合は漢字書類を下さい

褒美を下さる

補助動詞の場合は平仮名ご検討ください

ご注意ください

ご了承ください

関わる・かかわらず
「関わる」は漢字命に関わる

計画に関わる人。

「(〜に・にも)かかわらず」という場合には平仮名

(逆説の意味の場合)

休日にもかかわらず働くことになる。

小学生であるにもかかわらず理解している。

ご存知・ご存じ
「ご存知」とは書かない×
「ご存じ」

(動詞の「存する」の連用形「「存じ」

電話番号はご存じでしょうか。

皆さまもご存じのように…

是非・ぜひ
良い悪いの意味の場合は漢字是非を論じる。

是非を問う。

副詞は平仮名ぜひ、お願いします。

ぜひ、お越しください。

出来・できる
名詞形、複合語は漢字上出来だ。

出来上がる

出来が良い。

動詞、副詞は平仮名することができる

できるだけ。

橋ができる

達・たち
友達は例外として漢字友達になる。
友達以外の「たち」は平仮名子どもたちと遊ぶ。

あの人たちには困った。

様・さま
敬称、漢字で書く習慣が強い場合は漢字

なるべく平仮名とするさま

お客さま

さま

接尾語などは平仮名ありさま

お互いさま

お疲れさまです。

さまざまは平仮名さまざまな人を見た。

さまざまな選択肢がある。

早い・速い
時間の場合は「早い」早い者勝ちです。(先着順)

理解が早い

出発を早める

速度の場合は「速い」車の速さ

流れが速くなる

ペースが速い

文字起こしの表記のやり方9つのチェックポイント

文字起こしの表記9つのチェックポイント

文字起こしの表記の基準となるのは、国から出された次の指針です。[注1]〜[注4]

  • 常用漢字表
  • 送り仮名の付け方
  • 現代仮名遣い
  • 外来語の表記

ただし、上記の指針を常に確認するのは多大な労力もかかり、現実的ではありません。

新聞表記に基づいた文字起こしをするなら、共同通信社の「記者ハンドブック」をお手元に置き、確認することをおすすめします。「記者ハンドブック」であれば、上記の指針に沿った表記が記載されています。

それでは、文字起こしをするときに大切な9つのチェックポイントをご紹介します。

  1. 漢字表記か平仮名表記か
  2. 常用漢字表にない音読みの漢字の表記
  3. 常用漢字表にない訓読みの漢字の表記
  4. 形式名詞は平仮名表記
  5. 擬態語は平仮名表記、擬音語は片仮名表記
  6. 数字の表記方法
  7. 外来語の表記方法
  8. 固有名詞の表記方法
  9. 約物の表記方法

詳しく確認していきましょう。

漢字表記か平仮名表記か

漢字表記か平仮名表記か

基本的に、常用漢字表に採用されている漢字は漢字表記とします。

ただし、一般的に使われている漢字でも、常用漢字表に読み方が採用されていない場合には平仮名表記とします。

例文で確認してみましょう。

【例文:漢字か平仮名か】

よろしく

×宜しく→よろしく

常用漢字表では、「宜」」には、「ギ」という読み方と「適宜」「便宜」という例しか記載がありません。「よろ(しい)」という読み方はないのです。そのため、「よろしく」と平仮名で表記します。

【例文:漢字か平仮名か】

つらい

×辛い→つらい

常用漢字表では、「辛」には、「つらい」という読み方は記載されていません。「シン」「からい」という読み方しか記載がありません。そのため、「つらい」と書きたい場合には、「辛」という漢字は使いません。「つらい」と平仮名で表記します。

上記の例のように、常用漢字表に採用されていない読み方の漢字表記はしません。漢字表記か平仮名表記か迷うときには、記者ハンドブックで地道に確認しましょう。

常用漢字表にない音読みの漢字の表記

常用漢字表にない音読みの漢字を表記する場合には、かっこ書きで読み仮名を記載します。

例で確認してみましょう。

【例:常用漢字表にない音読みの漢字】

楕円(だえん)

諜報(ちょうほう)

天蓋(てんがい)

動悸(どうき)

怒涛(どとう)

上記のように、常用漢字表にない音読みの漢字を漢字表記する場合には、後ろにかっこ()をつけて、そこに読み仮名を書きます。

記者ハンドブックではルビが振られている漢字です。文字起こしのやり方としては、漢字の後ろにかっこ()をつけて、そこに読み仮名を書くようにしましょう。

常用漢字表にない訓読みの漢字の表記

常用漢字表にない訓読みの漢字の表記では、平仮名を使います。

うがつ  ×穿(うが)つ

うれしい ×嬉(うれ)しい

なでる  ×撫(な)でる

にぎやか ×賑(にぎ)やか

まく   ×撒(ま)く

上記は、記者ハンドブックでは平仮名書きが記載されている言葉です。その場合は、平仮名表記をします。

形式名詞は平仮名表記

実質名詞は漢字・形式名詞は平仮名

形式名詞は平仮名で表記します。
形式名詞とは、実質的意味をもっていない名詞のことです。

記者ハンドブックには、次の語が挙げられています。

【例:形式名詞】

こと(事)

とき(時)

ところ(所)

うち(内)

もの(物・者)

わけ(訳)

ただし、これらの名詞は実質的意味をもって使われる場合には、漢字を使います。例で確認してみましょう。

【例:事・ことの表記】

漢字:

考え事 芸事 研究している事 事柄 事足りる

願い事 習い事 見事 物事 約束事

平仮名:

あんなことになった うまいことを言う 準備しておくこと

見たこともない 読むこと

次のように覚えておきましょう。

  • 実質名詞(具体的な事柄)   →漢字
  • 形式名詞(主に抽象的な内容)   →平仮名

擬態語は平仮名表記、擬音語は片仮名表記

擬態語は平仮名・擬音語は片仮名

擬態語は平仮名表記、擬音語は片仮名表記をします。

擬態語は、「状態や様子」を表す言葉です。例で確認しましょう。

【擬態語】

きらきら つるつる がたがた

うっかり うろうろ がんがん

はっきり むかむか わくわく

「わくわく」などは片仮名表記としてしまいそうですが、文字起こしのやり方では、平仮名で表記するのが正解です。

次に、擬音語を例で確認しましょう。擬音語は、実際に音として聞こえるものを表す言葉です。

【擬音語】

ワンワン トントン パチパチ

ギャーギャー ニャーニャー

ガタンゴトン チリンチリン

「ワンワン」などの動物の鳴き声や、雨が降る「ザーザー」などが代表的です。

数字の表記方法

文字起こしでは、数字は基本的にアラビア数字を使います。全角か半角かは、仕様に従いましょう。

算用数字と漢数字の使い分けは、一般的な使い分けに従います。

算用数字
  • ほかの数に置き換えられる数字
  • 数量
  • 順序
漢数字
  • 数字が語句を構成する要素である
  • 慣用句・ことわざ
  • 熟語

数量、順序、ほかの数に置き換えられる数字は、算用数字で表記します。

【例:算用数字】

水を3杯飲む。

1,000メートル走る。

1つ目の信号を右に曲がる。

固有名詞、慣用句、ことわざ、熟語は漢数字で表記します。

【例:漢数字】

春一番

二人三脚 

石の上にも三年

こちらの記事にも数字の使い分けについて記載があります。ぜひ、ご覧ください。↓

https://xn--3kq3hlnz13dlw7bzic.jp/numeral

外来語の表記方法

外来語とは、元は外国語で、日本語として使われるようになった言葉のことです。例で確認してみましょう。

【例:外来語】

ストレス リサイクル アイスクリーム アイロン

イコール エレベーター キャベツ クイズ

コンクール ゲーム コピー

ストレス、リサイクルなど、非常によく目にする言葉です。外来語は片仮名で表記しましょう。

固有名詞の表記方法

固有名詞の場合には、常用漢字表に記載されていない字であっても、そのまま使います。

例で確認してみましょう。

【例:固有名詞(地名)

牟礼村 (むれむら)

神栖市(かみすし)

積丹(しゃこたん)

相生(あいおい)

姶良(あいら)

鬼籠野(おろの)

例では、地名を挙げましたが、人名企業名などにも、特殊な漢字表記はあります。確認しながら正しい漢字名を書きましょう。

約物の表記方法

文字起こしの約物の表記

約物とは、句読点、かっこ、などの記述記号のことです。

基本的には全角です。仕様で指示がある場合には半角にします。かっこの表記では、次の点に注意しましょう。

【注意点:かっこ】

「」の最後に句点を打たない

×「一緒にビジネスをしましょう。」と言われました。

「一緒にビジネスをしましょう」と言われました。

「」を単独の行にしない

×「一緒にビジネスをしましょう」
と言われました。

「一緒にビジネスをしましょう」と言われました。

また、「」なしでもわかるようなら、「」はできるだけ使わない方がよいとされています。

[注1]文化庁/常用漢字表

[注2]文化庁/送り仮名の付け方

[注3]文化庁/現代仮名遣い

[注4]文化庁/外来語の表記

【まとめ】文字起こしは表記に気をつけよう

文字起こしでは、ただ音声を文字に起こせばよいわけではありません。さまざまなルールや、やり方があります。その中の表記について解説いたしました。

特に間違いやすい表記は覚えておくと安心です。また、理解があやふやであるもの、分からないものは、必ず「記者ハンドブック」などで確認しましょう。

参考文献:廿里美「文字起こし&テープおこし即戦力ドリル」株式会社エフスタイル

    :一般社団法人共同通信社「記者ハンドブック第13版」共同通信社