「文字起こし」は、インタビューなどの録音された音声を聴いて、言葉を文字にする仕事です。テープ起こしともいいます。
言葉を文字にするだけなら簡単にできそうです。
とんでもない!
そう簡単にはいきません。
会話は、文章のように推敲して組み立てられているわけではありません。
そのまま聞き取って文字にするのも、整えて正しい文章にするのも、どちらもとても手間がかかる作業です。
こちらでは、「ケバ取り」という文字起こしのやり方について、わかりやすく解説いたします。
ケバとは、「えー」「なんか」「はいはい」などの、意味を持たない相づちや音声、言い間違えなどのことです。文章の内容には関係ない不要な言葉を指します。「ケバ取り」とは、このケバを、削除したり修正したりする作業です。
目次
「ケバ取り」とは不要な言葉を削除・修正する作業
文字起こしには3つの種類があります。
- 素起こし・逐語起こし: 音声を忠実に文字化する
- ケバ取り: 不要語を削除・修正する
- 整文: 読みやすく整える
「ケバ取り」は、「あー」「えーと」などの、会話の内容とは関係ない不要な言葉を削除・修正する作業のことです。
「ケバ」を辞書で引いてみると、「紙や布などの表面がこすれてできるささくれ」と説明されています。[注1]
文字起こし・テープ起こしにおいて「ケバ」にあたるのが、「えー」「あー」のように意味がない言葉などです。
私たちは、会話のなかでは、無意識に多くの意味がない音声を発しています。言葉に詰まったときや、次の話題を考えるとき、会話のつなぎとして、「えー」などの言葉を発しているものです。
英語では、「filler」(つなぎ語)にあたります。会話と会話の間を満たす(=fill)ため、fillerという語になったのでしょう。また、つなぎ語のほかにも、言い間違えや、言い淀みも多いものです。
ケバ取りを例文でご説明します。
【例文:ケバ取り】
あー、それで、じ、自分の会社ね、作ろうと決めました。
↓ケバ取り
それで、自分の会社を作ろうと決めました。
例文の「あー」も「じ」も「ね」も、話の内容を伝えるためには不要な言葉です。そこで、ケバ取り作業では、これらを削除します。
それでは、話の内容に関係ないからといって、一見不要な言葉をすべて削除・修正してよいかというと、そんな単純なものではありません。
インタビューであれば、その方に特有の口調の面白さや、対話の雰囲気を伝えなければならないため、ケバであっても文脈が損なわれない程度には残す、などの工夫が必要です。また、話者の言い間違いも、不自然にならないよう修正します。
話者の雰囲気を残しながら文章を整えるという場面で、機械にはない、人間の技能が生かされます。文字起こし・テープ起こしのアプリを活用するとしても、最終的には人の手による修正が必要です。
[注1]参考元:小学館/デジタル大辞泉
6種類のケバを例文で解説
ケバについて、例文で具体的に確認してみましょう。
意味のない言葉:「ええ」「ああ」など
間投詞は、「ええ」「ああ」など、感動・応答・呼びかけを表す言葉です。意味がある場合には残しますが、話と話のつなぎでしかない言葉は、削除・修正します。
【例文:ケバ取り(無意味な言葉)】
これが真相です、はい。
↓ケバ取り
これが真相です。(自己応答を削除)
【例文:ケバ取り(無意味な言葉)】
えー、この問題について、あのー、できる範囲でご説明します。
↓ケバ取り
この問題について、できる範囲でご説明します。(えー、あのー、などは削除)
語尾伸ばし
語尾をのばして話す癖のある方も少なくありません。これも、基本的には削除します。
ただし、雰囲気を伝えるために必要であれば残すこともあります。
【例文:ケバ取り(語尾伸ばし)】
だからぁー。言ったんですよぉー。
↓ケバ取り
だから、言ったんですよ。(語尾伸ばしは削除)
【例文:ケバ取り(語尾伸ばし)】
それでー、お客様に無料でお配りしたところー、とても好評でー、
↓ケバ取り
それで、お客様に無料でお配りしたところ、とても好評で、
言い淀み
「ご、ご遠慮」など、言い淀んでしまっている場合も、不要な部分を削除します。
【例文:ケバ取り(言い淀み)】
ご参加は、ご、ご遠慮いただいたのですが。
↓ケバ取り
ご参加は、ご遠慮いただいたのですが。(言い淀みを削除)
【例文:ケバ取り(言い淀み)】
従業員の業務量を減らそうと考えました。でも、クオ…、クオリティチェックまではやろうと。
↓ケバ取り
従業員の業務量を減らそうと考えました。でも、クオリテチェックまではやろうと。(言い淀みを削除)
言い間違い
言い間違いがあったときには、言い間違いは削除して、言い直した言葉だけを使用します。
【例文:ケバ取り(言い間違い)】
自社の魅力だけでは集められないようなきょきゃく…顧客の獲得を目指します。
↓ケバ取り
自社の魅力だけでは集められないような顧客の獲得を目指します。(言い間違えたほうの言葉は削除)
【例文:ケバ取り(言い間違い)】
当時は、フランスで浮世絵が注目されていました。ジャパニズム、失礼、ジャポニズムの到来ですね。
↓ケバ取り
当時は、フランスで浮世絵が注目されていました。ジャポニズムの到来ですね。(言い間違えたほうの言葉は削除)
独り言
「あれ?なんだっけ?」のような、自分自身に確認する独り言は削除します。
【例文:ケバ取り(独り言)】
大学のときに旅したのが…なんだっけ、ど忘れしちゃったな。そうそう…カンボジアです。
↓ケバ取り
大学のときに旅したのがカンボジアです。(独り言を削除)
【例文:ケバ取り(独り言)】
最近の人たちって、なんていうのかな…人間関係が希薄じゃないですか。
↓ケバ取り
最近の人たちって、人間関係が希薄じゃないですか。(独り言を削除)
多すぎる口癖
文章をスムーズに読むのが難しくなるほど多い口癖であれば、減らします。ただし、その人らしさを消さないよう、5回に1回は残すなど、工夫も必要です。
【例文:ケバ取り(多すぎる口癖)】
僕はつまり、他人のことには興味がないんですよ。つまり自分に集中することが重要だと考えていて…つまり…
↓ケバ取り
僕は、他人のことには興味がないんですよ。自分に集中することが重要だと考えていて…つまり…(口癖を加減しながら削除)
【例文:ケバ取り(多すぎる口癖)】
なんか、そこで、なんか、考えたんですよ。なんか、こうしたらいいという方法が浮かんできて。
↓ケバ取り
そこで、考えたんですよ。こうしたらいいという方法が浮かんできて。(口癖を削除)
ケバ取りをあえてしない文字起こし
文字起こしのやり方のなかには、あえてケバ取りをせず、ケバを残すやり方もあります。
ケバを残す文字起こしを、「素起こし」「逐語起こし」といいます。
なぜケバを残して素起こしするのかというと、研究用・裁判用などの音声は、不要と思われる部分でも正確に文字化する必要があるためです。ここで注意すべきは価格です。音声そのままを文字起こしするのだから、ケバ取りより安いのではないかと思いがちですが、ケバを残す素起こしのほうが、価格は高いのが一般的です。
素起こしについて解説した記事もご覧ください。↓
ケバは必要に応じて削除する
ケバ取りは、不要な言葉を何から何まですべて削除するわけではありません。クライアント様のご要望にお応するためには、機会的な作業ではなく、必要に応じたケバ取りをしていきます。
不要な言葉を削除しつつも、口調の面白さを残したり、ニュアンスの再現に必要な口癖であれば残したりと、細かい判断をしながら作業を積み重ねます。新規のクライアント様には、「雰囲気を残すことを重視するか」「内容のみが整然と伝わることを重視するか」など、ご要望を確認しておくことが大切です。
参考文献:廿里見「文字起こし&テープ起こし即戦力ドリル」エフスタイル