「テープ起こし」は、録音された音声を聞き、言葉を文字に起こす仕事です。文字起こしともいいます。
テープ起こしをするうえで、注意すべきルールはありますか?
うーん、そうですね…次の3つは覚えておきたいルールです。
- 起こし方のルール
- 文章作成のルール
- 在宅ワークのルール
テープ起こし・文字起こしには、「素起こし・ケバ取り・整文」という3つの起こし方のルールがあります。まずは、3つの起こし方の基礎知識が必要です。
そのほか、表記などの文章のルール、納期を守るという在宅ワークのルールなど、最低限の大切なルールをご紹介します。初心者の方にも分かりやすくまとめました。ぜひ、ご覧ください。
目次
【1. 起こし方のルール】 素起こし・ケバ取り・整文
テープ起こし(文字起こし)では、音声データを聞き取り、文字に起こして文章データを作成します。
文字に起こす際、大きく3種類の起こし方があります。「素起こし」「ケバ取り」「整文」という3つの起こし方です。
実際には、もっと細かくクライアント様のご希望に沿った仕様に従いますが、その前に、基本の3種類は知っておかなければなりません。
分かりました。
3つの起こし方について教えてください。
次の3つです。
- 素起こし(逐語起こし): 音声を忠実に文字化する
- ケバ取り: 不要語を削除・修正する
- 整文: 読みやすく整える
例文で確認しながら、詳しく見ていきましょう。
素起こし
「素起こし」では、音声を忠実に文字化します。
会話の流れとは関係ない笑い声や相づちなども、そのまま文字にする必要があるでしょう。「えーと」「あのー」などのケバも残します。
書き言葉としては正しくない表現であっても、修正せずに文字に起こすのでしょうか?
そうです。
例文で確認してみましょう。
【例文:素起こしとケバ取りと整文を比較】
音声:えっとですね。わたしがたんとうしたのが1がつからで、それまでもたぶしょからかかわってはいたんですけど、1がつにはいったときは、ようすをみていてほしいといわれたんだけど、ほとんぼのばあいよけいなてまがおおいなとおもうと、やっぱりみていられなくて、けっきょくくちだししちゃいましたね。
↓
【素起こし】 そのまま起こす
えっとですね。私が担当したのが1月からで、それまでも他部署から関わってはいたんですけど、1月に入ったときは、様子を見ていてほしいと言われたんだけど、うーん、もう本当に余計な手間が多いなともう思って、やっぱり見ていいられなくて、で、結局、口出ししちゃいましたね。
【ケバ取り】 相づちや不要語を取り除く・最低限の修正
私が担当したのが1月からで、それまでも他部署から関わってはいたのですが、1月に入ったときには、様子を見ていてほしいと言われたんだけど、もう本当に余計な手間が多いなと思って、やはり見ていられなくて、それで、結局、口出ししちゃいましたね。
【整文】 読みやすく整える
私が担当したのが1月からでした。それまでも他部署から関わってはいました。1月に入ったときには様子を見ていてほしいと言われたのですが。余計な手間が多いのが見ていられなくて、結局、口出しをしてしまいました。
素起こしでは、「えっとですね」「うーん」などの相づちや、「で、」などの話し言葉もそのまま文字にします。書き言葉としては正しくない表現であっても、修正せずに文字に起こします。
そのまま文字に起こすというと、簡単だと思われそうですが、そんなことはありません。音声を忠実に文字にするのは、たいへん、手間のかかる作業です。
ただし、周辺の騒音などは文字に起こす必要はありません。
素起こしで文字に起こすもの、起こさないものを確認しましょう。
【素起こしで文字に起こすもの】
言葉・相づち・笑い声
【素起こしで文字に起こさないもの】
工事音・雷・サイレンなどの周囲の騒音
なるほど。
それでは、素起こしに向いているのはどのような用途ですか?
発言をそのまま残す必要がある資料に向いています。
次の用途などが素起こしに向いているでしょう。
- 法務(裁判記録など)
- 市場調査
- カウンセリング
- 会話分析
発言をニュアンスまで含めて全て残すことが必要な資料は、素起こしに向いています。
記事ブログ内に、素起こしについて解説した記事があります。素起こしに必要な知識とコツを分かりやすくご説明しています。こちらもご覧ください↓
ケバ取り
「ケバ取り」は、「相づちを取り除くこと」という認識でよろしいでしょうか?
相づちだけではありません。
「ケバ取り」の代表的な作業は、「相づち」だけではなく、会話の内容とは関係ない不要な言葉を取り除きます。
「ケバ取り」では、「あの」「えー」など、会話の内容とは関係ない不要な言葉を削除し、最低限の修正をします。
会話のなかでは、無意識に多くの意味のない言葉が発せられます。次の話題を考えるとき、言葉に詰まったとき、会話のつなぎとして「えー」といった言葉を発しているものです。
「ケバ」として削除・修正するのは、次の言葉です。
【ケバ】
- 意味のない相づち 「あー」「えー」
- 語尾伸ばし 「それでぇー」
- 言い淀み 「ご、ご自由に…」
- 言い間違い 「足元をすくわれる」(◯足をすくわれる)
- 独り言 「なんだっけ」
- 多過ぎる口癖 「なんか…なんか…」 など
ケバとされる言葉は、相づちだけでなく、いろいろあるのが分かりました。
ケバは、「細かい不要語」といったところでしょうか。ケバを取るとずいぶん読みやすくなるのは確かです。
ケバ取りでは、最低限の修正もします。例文で確認しみてましょう。
【例文:ケバ取り(意味のない相づち)】
こうして現在に至るというわけです、はい。
↓ケバ取り
こうして現在に至るというわけです。
【例文:ケバ取り(語尾伸ばし)】
それでぇー、分かってもらいましたぁー。
↓ケバ取り
それで、分かってもらいました。
【例文:ケバ取り(言い淀み)】
大学院を、そ、卒業した後に…
↓ケバ取り
大学院を卒業した後に…
【例文:ケバ取り(言い間違い)】
システムの新境地…新領域の開発を…
↓ケバ取り
システムの新領域の開発を…
【例文:ケバ取り(独り言)】
なんというか、お客様対応っていうんでしょうかね。そういったことができなくて…
↓ケバ取り
お客対応ができなくて…
【例文:ケバ取り(多すぎる口癖)】
なんか、全体的にはできていたんですが、なんか、ちょっと運営できていない状態で、なんかいい方法はないかなと。
↓ケバ取り
全体的にはできていたのですが、ちょっと運営できていない状態で、いい方法はないかなと。
ケバ取りでは、不要な言葉をすべて機械的に削除するわけではありません。臨機応変が求められます。
クライアント様が雰囲気を残した原稿を希望された場合には、不要な言葉を削除しつつも口調の面白さを残したり、口癖もくどくならない範囲で残したりします。
機械的ではない、文字起こしライターのセンスが問われるところです。
記事ブログ内にケバ取りについて解説した記事があります。具体的な例文を使い、分かりやすくご説明しています。こちらもご覧ください↓
整文
「整文」とは読みやすく整えることです。
「ケバ取り」では、不要語を削除しました。
整文では、さらに、読みやすく正しい文章に整えます。
分かりました。
助詞を補ったり、語順を変えたり、話し言葉を修正したり、ということなら、私もできます。
整文で行うのは、次に挙げる11の作業などです。
- 「ら抜き言葉」「い抜き言葉」などを修正する
- カジュアルな言い回しを修正する(「めっちゃ」など)
- 重複を修正する(「必ず必須です」など)
- 聞き取れない部分を補完
- 間違った敬語を修正
- 助詞の補完と修正
- 語順の入れ替え(倒置法を通常の語順に修正するなど)
- 表現の修正
- 話し言葉を修正(「いろんな」など)
- 不足を補完
- センテンスを区切る
整文を行うことで、正しく読みやすい文章に仕上がります。
例文で確認してみましょう。
【例文:整文】
音声:拝見させていただいたのが、その頃、24歳の頃だったので、
↓整文
整文後:拝見したのが、24歳の頃だったので、
(二重敬語と重複を修正)
【例文:整文】
音声:私は、会社に行くのに、同じ東京都なんですけれども、2時間かかるんですよ、片道で。
↓整文
整文後:私は、住まいと会社が同じ東京都なのですが、会社に行くために片道2時間かかります。
(倒置法を通常の語順に修正して話し言葉を整える)
【例文:整文】
音声:18年に創業しました。
↓整文
整文後:2018年に創業しました。
(不足を補完)
【例文:整文】
音声:人と人が結びつけるプロジェクト
↓整文
整文後:人と人を結びつけるプロジェクト
(助詞を修正)
整文では、ただ正しく整えるだけでは不十分です。会話の雰囲気を重視したい場合には、雰囲気が伝わる口調や話し言葉をほどよく残します。
【例文:整文】
この事業にそのデザインって、マジ、ダサいと思ったんすよ。
↓整文
1 しっかり整文
整文後:この事業にそのデザインは、真面目に野暮ったいと思ったのです。
2. 雰囲気重視の整文
整文後:この事業にそのデザインって、本当にダサいと思いました。
しっかりした整文では、話し言葉は正しい書き言葉に修正します。
一方、雰囲気重視の整文では、話し言葉であっても、残すべきところはあえて残します。
分かりました。
整文では、固めの文章を起こすのか、雰囲気を重視した文章を起こすのか、確認してから文字起こしを行います。
記事ブログ内に整文について解説した記事があります。具体的な例文を使って分かりやすくご説明しています。ぜひ、ご覧ください↓
【2. 文章作成のルール】 表記や書き言葉
文字起こしで作成する文章データは、単に言葉が文字になっていればよい、というものではありません。仕様や一般的な表記ルールにのっとって文章を作成します。
また、ケバ取りでは最低限の修正、整文では正しく整える作業が必要です。このとき、音声データの話し言葉を正しい書き言葉に直せるよう、話し言葉と書き言葉の違いについても知っておかなくてはなりません。
表記
文字起こしの原稿は、誤字脱字や表記ゆれなどがないように仕上げます。また、読み直し校正もして、間違いを修正します。
表記で気をつけなければならないのは、次の3つです。
- 漢字・ひらがな・カタカナ表記
- 数字表記(算用数字か漢数字か)
- 表記ゆれ(表記は統一する)
上記をチェックするためにも、表記の一般的なルールを知っておかなければなりません。もちろん、すべてを暗記することは難しいため、標準的な判断の指針となるテキストを用意しておきましょう。
代表的なのは次の2冊です。
- 共同通信社「記者ハンドブック」 (新聞表記)
- 日本速記協会「新訂 標準用字用例辞典」 (速記表記)
どちらを選ぶか迷う場合には、まず、出版業界でよく使われている「記者ハンドブック」を用意しておきましょう。
それでは、正しい表記とは何かを例文で確認してみましょう。
【例文:表記】
音声:ほんじつは よろしく おねがい いたします。
↓
✕:本日は宜しくお願い致します。
◯:本日はよろしくお願いいたします。
記者ハンドブックでは、「宜しい」は「よろしい」とひらがなで記載されています。常用漢字表には「宜」は「ギ」という読み方しかありません。そのため、ひらがなで表記します。[注1]
また、「お願いいたします」の「いたします」は、「お願いする」の補助動詞であるため、「いたします」とひらがなで表記します。
[注1]文化庁/常用漢字表[pdf]
書き言葉
テープ起こしの音声データは、話し言葉が使われています。
話し言葉は、会話のなかでは問題なく使用できても、文章としては正しい言葉遣いと認められていないことがあります。
とくに、整文では、話し言葉を正しい書き言葉に直せる知識が必要です。
話し言葉にはおもに次のタイプがあります。
【話し言葉の6つのタイプ】
不要な文言:「〜になります」→「です」
ら抜き言葉:「着れる」→「着られる」
独特の意味:「はまる」→「熱中する」
若者言葉:「めちゃくちゃ」→「とても」
消極的表現:「だったりします」→「です」
省略表現:「書き途中の」→「書いている途中の」
このほかにも、会話のなかでは自然でも、文章にすると稚拙に感じる表現があります。
【稚拙に感じる話し言葉】
いろんな → いろいろな
ちょっと → 少し
さっき → さきほど
一応 → 念のため
やっぱり → やはり
〜けれども → 〜ですが
話し言葉が混入すると、文章の意味が分かりにくく、稚拙な印象になりがちです。
しかし、必ず話し言葉を書き言葉に修正するわけではありません。「素起こし」の指定があるときは、話し言葉もそのまま文字にします。ケバ取りでは、最低限の修正をし、整文ではしっかり修正します。
【3. 仕事のルール】 一般常識
テープ起こしは、在宅でお仕事される方が多い仕事です。
そこで、仕事を請ける前提として、在宅ワークでの仕事の一般常識が必要です。
分かります。
一般常識は大切です。
- 納期を守る
- 丁寧な仕事をする
- 守秘義務を守る
上記の3つは最低限守るべきルールです。詳しく見ていきましょう。
1. 納期を守る
納期は必ず守らなければなりません。納期というのは、「どうしてもその日までに必要な日」と認識しましょう。
納められた文字起こし原稿は、その後、編集や校正などの工程が待っているものです。もしも納期に遅れると、次の工程も含めたスケジュールの調整が必要になります。さらに、発注先の必要な日に完成原稿が用意できなくなってしまうかもしれません。
不測の事態も考慮し、納期の前日には納品するように心がけましょう。
2. 丁寧な仕事をする
納期を守るとしても、スピード偏重ではいけません。一つひとつのお仕事を丁寧にこなしましょう。
- 仕様に沿って文字起こしする
- 誤字脱字を確認する
- 指定された形式で納品する
上記の基本を心がけ、常に一定のクオリティを保ちましょう。
3. 守秘義務を守る
音声データは大切に守るべき情報です。音声データの内容や、クライアント様に関することは、外部で話すことのないようにしましょう。
情報が流出しないよう、データ管理にも細心の注意が必要です。
分かりました。
ほかにも気をつけたほうがよいことはありますか?
このほか、体調管理や、スキルアップのための勉強など、自律した生活も重要です。
また、常に連絡に応じられる態勢でいるのも、信頼を得るためには大切です。
どれも当たり前のことばかりですが、一般常識にのっとった行動ができる方は信頼されます。「このくらいでいいや」と思わずに、こだわりと誇りをもってお仕事をこなしていきましょう。
ルールを知ればスムーズに業務を行える
テープ起こしに必要なルールをご紹介しました。ルールは、必要最低限の基礎知識ともいえます。まず、「素起こし」「ケバ取り」「整文」の起こし方のルールはしっかり理解しておきましょう。