最近、文字起こしのお仕事にも興味があります。文字起こしの基本を知りたいのですが、整文(せいぶん)という用語がよくわかりません。
まず確認ですが、「文字起こし」とは、録音された音声を聴いて、言葉を文字に起こす仕事のことです。テープ起こしともいいます。
「整文」は、この文字の起こし方の種類の一つです。
会話の音声を聴いてみると、正しくない話し言葉も多く混ざっているものです。また、語順が整わず、助詞が抜けていることも少なくありません。
整文では、このように、文章として適切ではない言い方を丁寧に修正して整えます。整文することで、読みやすく理解しやすい文章が完成します。
目次
整文とは
文字起こしには、おもに3つの種類があります。
|
整文とは、読みやすく整えることですか。
そうです。
ケバ取りでは、「えー」「あのー」などの不要語を取り去ります。
整文では、これをさらに、読みやすく正しく整えます。具体的には、助詞を補ったり、語順を変えたり、話し言葉を修正したりします。
整文を行うことで、すっきりと理解しやすい文章に仕上がります。例文で確認してみましょう。
【例文:整文で読みやすく】
音声: その後、旅したんですよ、あちこちの国を。
↓整文
整文後: その後、多くの国を旅しました。(倒置法を通常の語順に修正)
【例文:整文で読みやすく】
音声: 一番最初にリヒテンブルクに行かさせていただきました。
↓整文
整文後: 最初にリヒテンブルクに行きました。(重複や敬語の間違いを修正)
【例文:整文で読みやすく】
音声: えーっと、私、プロジェクトのリーダーに就任させていただきました〇〇と申します。
↓整文
整文後: 私は、プロジェクトのリーダーに就任いたしました〇〇と申します。
(助詞を補完して言い回しを修正)
会話のなかでは、話し言葉が多用されます。話し言葉には、文章にしたときには正しくないとされる表現が多くあります。
- ら抜き言葉
- 二重敬語
- 言葉の重複 など
上記は、整文作業で修正します。倒置法は、わかりにくい場合には述語を最後に移動させて整えます。ただし、整え過ぎて、発言者の意図や雰囲気を無視した文章になってしまってもいけません。
【例文:過剰な整文】
音声: そういうの、マジ、ださいと思うんですよ。
↓整文
整文後: そういうの、真面目に、野暮ったいと思うのですよ。
(俗語をすべて修正)
うーん。ここまで修正してしまうと、意味がわかりにくくなってしまう気がします…
そのとおり。上の例文は、俗語を忠実に修正してありますが、これでは発言の意図がわかりにくいです。
「マジ」を「真面目に」と、そのまま直しても、なんだかしっくりしません。また、「ださい」を「野暮ったい」に直してしまうと、ニュアンスが伝わりません。それでは、適切に整文を行ってみましょう。
【例文:適切な整文】
音声: そういうの、マジ、ださいと思うんですよ。
↓整文
整文後: そういうの、本当に、ださいと思います。
上のように、ニュアンスや会話の雰囲気が損なわれない程度に整文を行うのがよいでしょう。
このあたりは、センスや経験が活かされるところです。
整文の11のコツ:例文で解説
整文とは具体的にどう行うのかを教えてください。
はい、わかりました。
整文の作業を、大きく11に分類してご説明します。
「ら抜き言葉」「い抜き言葉」など
ら抜き言葉とは、可能の意味を表す「られる」から「ら」が抜け落ちてしまった表現です。
わかります。
「見られる(可能)」を「見れる」と言うのはら抜き言葉でしょう。
ほかにも、い抜き言葉という、本来必要な「い」が抜け落ちてしまった表現があります。会話のなかでは、「待っている」を「待ってる」と言うことはよくありますが、これはい抜き言葉とされ、文章中では修正が必要です。
【例文:ら抜き言葉の修正】
音声: まだ着れる服を集めてリサイクルする案です。
↓整文
整文後: まだ着られる服を集めてリサイクルする案です。(ら抜き言葉を修正)
【例文:い抜き言葉の修正】
音声: 私が到着するのを待ってたようです。
↓整文
整文後: 私が到着するのを待っていたようです。(い抜き言葉の修正)
カジュアルな言い回し:「めっちゃ」「やばい」など
文章には適さないカジュアルな言い回しも修正します。「めっちゃ美味しい」は「とても美味しい」「すごく美味しい」のほうが文章には適しているでしょう。
ただし、会話の雰囲気を残したい場合には、あえて修正しないまま使うこともあるでしょう。
【例文:カジュアルな言い回しの修正】
音声: 思ったんすよ。やっぱ、本物にはかなわないなって。
↓整文
整文後: やはり、本物にはかなわないと思いました。
【例文:カジュアルな言い回しの修正】
音声: そのまま失敗しちゃったら、すごい困るじゃないですか。
↓整文
整文後: そのまま失敗したら、すごく困るじゃないですか。
重複:「必ず必須です」など
会話のなかではうっかり重複表現を使うことがあります。「洗った洗濯物を干さなきゃ!」なんて言ってしまうことがあります。
整文では、重複も修正します。
「およそ20分ぐらいです」などはつい言ってしまうものかもしれませんが、「およそ20分です」と修正します。
整文に慣れてくると、「必ず必須です」なんて表現が、修正箇所としてピンとくるようになります。
【例文:重複の修正】
音声: 食後の歯磨きは必ず必須です。
↓整文
整文後: 食後の歯磨きは必須です。
【例文:重複の修正】
音声: それでは、一番最後に大切なことをお伝えします。
↓整文
整文後: それでは、最後に大切なことをお伝えします。
聞き取れない部分を補完
聞き取れない部分は推測して補完することもあります。
【例文:聞き取れない部分】
音声: 赤字が続いて、そろそろ閉店という言葉が脳裏に浮かんき…
↓整文
整文後: 赤字が続いて、そろそろ閉店という言葉が脳裏に浮かんできました。
例文のように、語尾が小さく聞き取れなくなってしまっても、文脈から当てはまる言葉が明らかであれば、補完します。
ただし、確信を持てないようなら、聴取不能とし、●などを入れます。聞こえなかったぶんの時間を記入することもあります。
間違った敬語を修正
二重敬語など、敬語の間違いも修正します。
わかりました。
「ご覧になられましたでしょうか」を「ご覧になりましたか」に修正するといった作業でしょうか。
【例文:間違った敬語】
音声: 池波先生もお召し上がりになられたそうです。
↓整文
整文後: 池波先生も召し上がったそうです。
【例文:間違った敬語】
音声: パンフレットはご覧になられましたでしょうか。
↓整文
整文後: パンフレットはご覧になりましたか。
助詞の補完と修正
「これ聞きたいと思っていた」→「これを聞きたいと思っていた」のように、助詞が抜けている場合は、補完します。
まず、助詞を補完する例を見てみましょう。
【例文:助詞の補完】
音声: 私、昔からこの野菜が本当に苦手で、
↓整文
整文後: 私は、昔からこの野菜が本当に苦手で、
また、助詞が間違っていたら修正します。
【例文:助詞の修正】
音声: 鉄と硫黄が結びつける化学反応
↓整文
整文後: 鉄と硫黄を結びつける化学反応
助詞が間違っていると、違和感があるだけでなく、意味ががらりと変わってしまうこともあるでしょう。丁寧に修正していく必要があります。
語順入れ替え:倒置法など
会話文は、文章のように整ってはいません。話し手が思いつくままの順序で話しているものです。これは整えたほうがよいでしょうか。
そうですね。
文章にしたときにわかりにくいようであれば、語順を入れ替えましょう。
【例文:語順の入れ替え】
音声: 本当によくしてくださったんですよ、会社の方が。
↓整文
整文後: 会社の方が、本当によくしてくださったんですよ。
【例文:語順の入れ替え】
音声: 泳いで行こうとして、向こう岸に、
↓整文
整文後: 向こう岸に泳いで行こうとして、
表現:曖昧・まわりくどいなど
曖昧な表現は、発話者が意図してそうしている場合には残します。
文章に起こしてみて、あまりにも曖昧の程度が過ぎるようであれば修正します。
わかりました。
読んで意味を理解するのが難しいのであれば、自然な形に修正します。
【例文:曖昧すぎる表現】
音声: もしかしたら、参加しないといっているわけではないと言っているともいえなくもないでわけですよね。
↓整文
整文後: もしかしたら、「参加しないではない」と言っているのかもしれない。
話し言葉:「けども」「いろんな」など
話し言葉には、「〇〇だけども」「いろんな〇〇」など、文章にすると稚拙に感じる言い方があります。やはり、整えたほうがよいですか?
そうです。
あえて口調をそのまま残すこともありますが、基本的には書き言葉に修正したほうが整うでしょう。
【例文:話し言葉の修正】
音声: そのときは、これで終わりだなと思ったけど、そこからが始まりでした。
↓整文
整文後: そのときは、これで終わりだなと思ったのですが、そこからが始まりでした。
【例文:話し言葉の修正】
音声: いろんな人がいますよね。
↓整文
整文後; いろいろな人がいますよね。
不足を補完する
不足している言葉があり、そのままでは、違う意味にも理解できてしまう場合は補完します。
【例文:不足を補完】
音声: 36度から7度です。
↓整文
整文後: 36度から37度です。
明らかに体温の話をしているのであれば、7度ではなく37度と、意図に沿うように言葉を補完しましょう。
【例文:不足を補完】
音声: 15年に立ち上げました。
↓整文
整文後: 2015年に立ち上げました。
15年は、平成15年なのか、2015年なのか、それともほかの年号なのか、そのままではわかりません。誰にでも誤解なく伝わるように補完しましょう。
センテンスを区切る
会話では、いったん区切らずに、どんどん話がつながっていくときがあります。読みくにいと思うのですが、どうしますか?
一つのセンテンスに述語が3つ以上ある場合は、区切ってみましょう。
【例文:センテンスを区切る】
音声:プランがあるけれど、それがお金のかかるプランで、どうしようかなと思って、出した答えがこれです。
↓整文
整文後:プランがありましたが、それがお金のかかるプランでした。どうしようかなと思って、出した答えがこれです。
すべての文章を単文(述語1つ)で区切ると、不自然になることもあるため、ある程度の複文は残してみてもよいでしょう。
【注意】整文し過ぎると不自然な文章になることも
あまり整え過ぎると、会話の雰囲気が伝わらず、不自然に固い文章になってしまいそうで心配です。
そうですね。
インタビュー記事など、雰囲気重視の依頼であれば、雰囲気が伝わる口調や話し言葉をほどよく残していきましょう。
【例文:整文の加減】
音声: 高校時代は、国語とか、英語とか、授業をサボったこともあるんすよ。
↓整文
1 しっかり整文
整文後: 高校時代は、国語や英語の授業を、怠けて欠席したこともあります。
2 雰囲気重視の整文
整文後: 高校時代は、国語や英語の授業を、サボったこともあります。
しっかり整文した例文では、「サボった」を「怠けて欠席した」と修正しましたが、雰囲気を重視するなら「サボった」は残すという選択肢もあるでしょう。
整文の際は、書き言葉として正確な文章を起こすのか、雰囲気を残した文章を起こすのか、方向性を決めてから行いましょう。
【用途】整文を行うのが適しているのは?
整文は、素起こしのように「音声をそのまま起こす」文字起こしとは様相が異なります。読みやすく整える「整文」に向いているのが、次の用途です。
- Web記事
- 記事原稿
- 会議資料
- 書籍化
- 会報
整文は、文章の間違いをほどよく修正するため、情報をスムーズに伝えるための記事原稿や会議資料の文字起こしに向いているでしょう。
一方、裁判の資料など、一言一句を正確に残すための文章であれば、素起こし・逐語起こしが適しています。
整文は方向性に沿ってバランスよく行う
雰囲気を重視して整文するなら、口調などの残す部分と、修正する部分の程度を調節しましょう。正確な文章が求められているなら、書き言葉で正確に整える必要があります。
国語力やセンスを活かし、依頼者の意図に沿ってバランスよく整えましょう。
参考文献:廿里美「文字起こし&テープ起こし即戦力ドリル」エフスタイル